# 天導ルリカは生まれるのを止めた

作者：公式配布ページの作者欄を参照（この下書きでは名義表記を省略）

原稿版：1.0／テキスト版：2026-10-27 JST／未公開下書き。
本文と「この本について」を収録。挿絵・巻末資料・あとがきは含みません。

公式配布ページ：https://huggingface.co/datasets/currnya/rurika

本文やキャラデザを AI に渡して、別の展開や挿絵づくりを楽しめます。作ったものを公開するときは、公式配布ページの利用条件と二次創作の手引きをご確認ください。

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# 第十八話　灯籠の夜

八月十五日、夜。

　＊

七時三十分、灯籠流しが始まった。

岸に提灯が十二並んでいた。客は、分家の人たちと、村の世話役が数人。合わせて二十人ほど。大人たちは、岸の砂利の上で、一人ずつ灯籠に火を入れて、水に置いた。灯籠は、風のない湖面をゆっくり離れていった。

前回の十歳の瑠璃は、この光景を見ていない。宴の途中で眠らされていた。白石澄が十六日の未明に舟屋の戸口から数えたのは、流れたあとの二十の灯籠だった。

今、私は流れる前の灯籠を見ている。

母が、私の隣に来た。

母は、紅と白の大きな花を染めた浴衣を着ていた。前回、舟屋の戸口で、髪を片側ほどいて膝をついた母が着ていた浴衣だった。宴の夜の母は、いつも岸でいちばん目立つ色を着る。

「瑠璃。あなたの番よ」

母は、縁側から持ってきた瑠璃色の星の灯籠を、私の手に載せた。蝋燭に、母が自分の手で火を入れた。

「一人で行けるわね。もう大きいんだから」

「はい」

「一番先から流すのよ。皆が見ているわ」

母は、周りの客にも聞こえる声でそう言って、私の背中を軽く押した。

私は、桟橋の付け根へ歩いた。

歩きながら、岸の提灯の列を見た。七時に列の端に立っていた伯父の姿が、そこになかった。一臣さまは、列の中ほどに一人で立っていた。

付け根には、おじさまが立っていた。提灯を一つ持っていた。父は、付け根の板の下にいるはずだった。板が提灯の光を遮っていた。岸の列からは見えない。

私が付け根に着くと、おじさまが小声で言った。

「戻ってこい」

「はい」

私は舟屋と反対側の縁にしゃがみ、灯籠を持ち直した。板の下から、大きな手が一度だけ伸びてきて、私の頭に置かれた。父は、何も言わなかった。

私は、桟橋の一枚目の板に、足を載せた。

　＊

板は、三十六枚あった。

一枚ずつ数えた。前回の十八歳の夏、架け替えられたあとの桟橋を、私は四十二枚数えた。今夜の桟橋は、古い桟橋だった。灰色に褪せた板で、ところどころ、釘の頭が浮いていた。

灯籠の火が、足元の板を照らしていた。

十枚目。

背中に、岸の提灯の光があった。前には、暗い湖があった。流れていった灯籠が、湖の中ほどに、いくつも浮いていた。

十五枚目。

十八枚目で、十三本目の杭の上に来た。

板が、少しだけ鳴った。鳴っただけだった。私の足の下で、梁は持った。下に、小野さんの入れた角材がある。桟橋の脇の暗がりに、澪の舟と小野さんがいる。見えなかった。見えないようにしてある。

十歳の瑠璃の膝が、震えていた。白石澄は、それを止めなかった。止めても、止まらなかった。

二十枚目。

岸からの声が、遠くなった。自分の息の音だけが聞こえた。

二十六枚目。二十七枚目。

前回、おじさまはこの板を、暗闇の中で走った。娘がいないと聞いて。灯りも持たずに。前回折れたのは、先端の柱だった。今夜、切られているのは、中ほどの梁だった。どちらも、この人を殺すために切られた木だった。

三十枚目。

三十六枚目。

先端に着いた。

私は、振り返らなかった。膝をついて、灯籠を水面に下ろした。瑠璃色の星の灯籠は、水に触れて、少し傾いて、それから真っ直ぐに浮いた。

指を離した。

灯籠は、杭の近くでしばらく回ってから、ゆっくり先端を離れ始めた。

　＊

そのときだった。

桟橋の脇の、舟屋のほうの暗がりで、大きな水音がした。

重いものが、水に落ちた音だった。水しぶきが上がる音が、先端まで届いた。

一拍おいて、岸から叫び声がした。

「瑠璃が落ちた！」

母の声だった。

「瑠璃が、瑠璃が落ちたわ！　桟橋から！」

続けて、伯父の声がした。岸の提灯の列からではなかった。舟屋のほうの暗がりからだった。

「先端だ！　落ちたぞ！　宗一郎、先だ！」

岸の提灯が、一斉に揺れた。客たちの声が重なった。何、どこ、と誰かが叫んだ。

私は、先端に立ったまま、振り返った。

桟橋の付け根で、おじさまの提灯が揺れた。

揺れて、止まった。

おじさまは、走らなかった。

提灯を、頭の上へ掲げた。

「瑠璃なら、そこにいる」

おじさまの声は、よく通った。十四日の夕方、自分の母親のために灯籠を流したときの声とは違った。星の間で時計の話をするときの声とも違った。四十三の時計を、全部自分で巻いている人の声だった。

私は、灯籠を離したばかりの手を、上へ掲げた。火はもう、手元になかった。代わりに、浴衣の白い袖を振った。

「おじさま。わたしは、ここです」

岸の声が、止まった。

先端から少し離れたところで、私の灯籠がまだ回っていた。その火が、浴衣の白い袖をかすかに照らしていた。二十人の目が、桟橋の先の私を見た。

　＊

桟橋の脇から、灯りが上がった。

澪の小さな舟だった。十三本目の杭の陰から、舟が一艘、ゆっくり出てきた。舳先の鉤に、カンテラが一つ吊るしてあった。小野さんは、櫂を片手に、もう一方の手でカンテラを外して高く上げ、板の下へ差し入れた。

光が、桟橋の下を照らした。

梁の下の面の、白い切り口が見えた。その真下に、古い角材が一本、斜めに差し込まれていた。

岸の何人かが、声を上げた。

小野さんは、カンテラを舟屋のほうへ向けた。

伯父が、そこにいた。

舟屋の、湖の上に張り出した板の端に。伯父の足元の板が、水に濡れて黒く光っていた。伯父の右の袖が、肘まで濡れていた。張り出しの端から、湖の水面まで、濡れた筋が一本垂れていた。その先の水面に、丸太が一本、浮いていた。

舟屋の裏手の林から、人影が三つ、外壁に沿って出てきた。駐在と、村の若い者が二人。

駐在が、伯父の濡れた右腕を取った。

伯父は、振り払おうとした。若い者の一人が、伯父の反対の腕を取った。

「何をする。私は、姪が落ちたと聞いて――」

「姪御さんは、あちらに」

駐在は、桟橋の先の私を、顎で指した。

伯父は、桟橋の先を見た。

浴衣の白い袖を振っている十歳の子を。

伯父の口が、開いたまま、閉じなかった。

　＊

一臣さまが、岸の提灯の列から、一歩前へ出た。

一臣さまは、舟屋の張り出しの父親を見ていた。濡れた袖と、湖に浮いた丸太と、それから桟橋の先で手を振っている私を、順に見た。

一臣さまは、何も言わなかった。

言わなかったが、その顔を、私は覚えておくことにした。昨日の夕方、渡された船をまず裏返して底を確かめた人が、今は、自分の父親が叫んだことと、目の前にある物を、一つずつ突き合わせている顔だった。

　＊

母は、岸の砂利の上に立っていた。

叫んだ口のまま、立っていた。

母の周りの客たちが、少しずつ母から離れた。誰も、何も言わなかった。村の世話役の一人が、隣の人に小声で言うのが聞こえた。

「奥様は、瑠璃さんが落ちたと……」

言いかけて、世話役はやめた。桟橋の先の私のほうを見て、それから、また母を見た。

母は、私を見ていた。桟橋の先の私を。

十八歳の四月二十日の夜、星の間で、母は泣いてから話した。今夜の母は、泣かなかった。泣く順番を、なくしたのだと思った。

　＊

私は、桟橋を戻った。

三十六枚の板を、一枚ずつ。今度は数えなかった。

付け根で、父が待っていた。騒ぎのあいだに、板の下から砂利へ上がり、光の中へ出てきていた。

父は、付け根から一歩も先へは動いていなかった。私が最後の板から砂利へ降りたとき、父は砂利に膝をついて、両手を広げた。

私は、父の腕の中へ入った。

膝をついた父の肩に、十歳の私の顎がちょうど載った。父の胸が、速く打っていた。背広の肩に、林の草の実がまだついていた。

「……戻ってきたな」

「うん」

「落ちるときは、落ちると言ってから落ちろと、言うたろう」

「落ちなかった」

「そうだな」

父は、私の背中を大きな手で二度叩いてから、腕をほどいた。立ち上がって、私の手を握った。父の手は、私の手をすっかり包んだ。

おじさまが、提灯を下ろした。下ろして、しばらく桟橋の先を見ていた。私の灯籠は、もう湖の中ほどの、他の灯籠の中にまぎれていた。

「あれは、どこまで行く」

おじさまが、誰にともなく言った。

「向こう岸までは行かん。途中で沈む」

自分で答えて、おじさまは少し笑った。

それから、お絹を呼んだ。

「お絹。瑠璃を、家の中へ。私の部屋へ。今夜は、この子から離れるな」

「はい、旦那様」

父が、握っていた私の手を、お絹の手に渡した。

家へ入る前に、私は一度だけ振り返った。

岸の提灯の列の中で、母はまだ、砂利の上に立っていた。誰も母のそばにいなかった。

母の顔は、私のほうを向いていた。

　＊

おじさまの部屋で、お絹が私に麦湯を飲ませてくれた。

冷たかった。糖蜜の味はしなかった。

私は、湯呑を両手で持ったまま、帳面を開いた。お絹が、灯りを寄せてくれた。

　八月十五日
　十九時三十五分ごろ　提灯の列に伯父がいない（七時には列の端にいた）
　十九時四十一分ごろ　桟橋の先で灯籠を流す
　同　水音（舟屋のほう）　母「瑠璃が落ちた」　伯父（舟屋のほうから）「先端だ、落ちたぞ、宗一郎、先だ」
　同　おじさま　走らず　「瑠璃なら、そこにいる」
　同　小野さんの舟　梁の切り口と支えの角材を照らす
　同　伯父　舟屋の張り出しの端　右袖が濡れている　丸太が水面に
　同　駐在　伯父の腕を取る
　同　一臣さま　列の中ほど　父親の叫びを聞いた
　見た者　岸の客二十人ほど

書いてから、最後の行を見た。

二十人。

十歳の子の言葉ではなかった。二十人の大人が、それぞれ自分の目で見た。

白石澄は、報告書の一行目を書き直す必要がないと思った。

ここまでは、予防だった。

ここから先は、調査だった。

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