S009 箱だけ先に帰った

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備
969字・約2分
スミが貸出用の木箱を閉めた。蓋がぴたりと収まる。机の上も片付いている。これで貸した道具は戻った、と彼女は帰る支度を始めた。
リヒトは机の反対側で、大きな掃除用ブラシを浮かせていた。さっき借りたばかりの道具だ。まだ使っていない。スミに「少し長く借りてもいいですか」と尋ねる前に、道具を見せようとして箱から出したのである。
ところがスミは、彼が箱を差し出した時点で、返却だと分かったつもりになっていた。
「ありがとう。今日も早かったね」
ブラシは、机の真ん中で静かに浮いている。
リヒトはスミと木箱を交互に見た。彼女は箱を棚へしまおうとしている。今ならまだ、ひと言で済む。そう思うのに、ねぎらいを取り消すようで申し訳なかった。
彼はブラシを少し下げた。箱の蓋の上で止まる。これなら中身が別にあると気付いてもらえるかもしれない。
スミは軽く笑った。
「箱まで磨いてくれるの?」
リヒトの肩が縮んだ。ブラシが上へ戻る。彼女は箱を胸に抱えた。空なので軽い。仕事が終わった軽さだと思っている。
ブラシはその上で、まだ仕事を始められずに待っていた。
スミが棚へ向きかけると、リヒトはようやく片手を出した。魔法を使っていない方の手だった。
「まだ使います」
スミは足を止めた。木箱を見る。浮くブラシを見る。箱の蓋を開けた。中はもちろん空だった。
「あ、箱だけ帰ってた」
彼女は箱を机へ戻した。戻ったブラシではなく、戻ったつもりの箱を、正式に返し直すような動きになった。
リヒトはほっとして笑った。大きなブラシがようやく手元へ降りる。浮かべていた間より、実際に持った方が肩は楽だった。
スミは帰り支度をやめ、借りたい時間を聞いた。リヒトは今日の終わりまで、と短く答えた。スミはうなずく。質問も答えも、箱を一度持ち上げるより早かった。
彼がブラシを持って作業場へ向かうと、スミは空箱を棚へ置いた。ただし今度は、返った道具の場所ではなく、貸し出した道具を待つ場所へ。
棚の二か所を見比べ、彼女は自分の早さへ少し頬を膨らませた。
夕方、リヒトが本当にブラシを返しに来た。スミは箱を開け、ブラシが入るのを見てから閉めた。
「今度こそ、お疲れさま」
彼はうなずいた。箱が同じように閉まる音がした。午後と違うのは、中身もちゃんと疲れて帰ってきたことだった。スミは箱の重さを両手で確かめて、今度は正しい棚へ置いた。
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