S015 勝負の歩幅

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備 / テーマ創作
1,016字・約3分
カフェの閉店後、イトとハルは店先で並んだ。花屋の戸締まりも済んでいる。二人とも、あとはそれぞれ帰るだけだった。
イトは通りの先の街灯を見た。そこまでなら、一緒に歩いても遠回りとは言わない。帰る方向が分かれる所も、ちょうどその手前にある。
「先にあの街灯へ着いた方が、明日の散歩に誘っていい」
彼女はサイコロを出さずに言った。ハルは街灯とイトを見て、笑った。
「歩いて行く勝負ね」
走ると買った花が傷むから、と付け足した。黄色いチューリップは、片手に一本だけだった。
二人は同時に歩き始めた。ハルの一歩は少し大きい。数歩進むと、彼は半歩前へ出た。
イトは相手の背中を見た。勝つつもりなら速く歩けばいい。明日の散歩へ誘うなら、今日も少し長く一緒にいたい。彼女はこの二つが矛盾していることに、歩き始めてから気付いた。
ハルは前へ進みかけ、横を見た。イトが少し後ろにいる。彼は一歩を小さくした。肩が並ぶ。
イトが歩幅を広げると、ハルはそれに合わせた。彼女が元へ戻すと、彼も戻る。追いつこうとしているのはイトなのに、距離だけは変わらなかった。
「先に着く気ある?」
イトが聞くと、ハルは彼女の足元を見てから、顔を上げた。
「今、いっしょに歩いてるから」
正面から答えられて、イトは一歩を出しかけた足を止めた。ハルも止まった。通りの途中で、同時に信号待ちをしているような二人になった。前に信号はない。
イトは街灯を見た。まだ少し先だ。あそこへ早く着いたら、今日の勝負が終わる。一緒にいる口実も終わる。
ハルは花を持ち直して待っていた。彼女を急かす気はないらしい。
イトは肩の力を抜いた。
「勝負、一旦中止」
ハルはうなずく。
「じゃあ、明日の散歩、いっしょにどう?」
彼女はすぐに答えようとして、唇を一度結んだ。勝ってから言うはずだった返事を、負けてもいないのに言うのは、思ったより照れた。
「行く。明日は競争なし」
ハルが笑った。
二人は歩き出した。速さはさっきと同じだった。競争をやめたのに、ハルは遅くなっていない。
街灯の下へ、二人の靴がほとんど同時に入った。イトは一瞬だけ足元を見たが、判定はしなかった。
帰り道の分かれ目で、ハルが明日の時刻を聞いた。イトは答える。彼が花を持った手を少し上げ、彼女も手を振った。
勝つために指定した街灯は、明日の待ち合わせ場所になった。イトは振り向いて灯りを見てから、サイコロの入ったポケットを押さえた。今日は出さなくても、ちゃんと予定が一つ増えていた。
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