S016 静かな大応援

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備
917字・約2分
工房の時計が、三日ぶりに正しい時刻を刻み始めた。ポンタは両腕を上げかけ、ナギの横に置かれた録音機を見て口を閉じた。今は修理した時計の音だけを録っている。拍手も歓声も混ぜてはいけない。
「成功したときの音が、いちばん欲しいんだけど」
「時計の成功した音なら、今録れてる」
ナギは椅子に座ったまま、機械の針を見ている。ポンタは大きくうなずいた。修理は自分の担当だった。嬉しくないわけがない。嬉しさの出口だけ、今日は閉まっている。
最初は親指を一本立てた。ナギも親指を返した。それで十分なはずだった。しかし時計はさらに十秒、間違えずに進んだ。ポンタは両方の親指を立てた。二倍の祝福だ。ナギは片手を戻し、もう片手だけで小さく丸を作った。
ポンタには、それが「もっといける」と見えた。
次に両手を頭の上へ持ち上げた。拍手の形を作るが、掌は触れさせない。空中にほんの少し隙間を残して、見えない拍手を二回送る。ナギの眉が上がった。音はしていない。禁止されたものは、何一つ増えていない。
時計がまた進んだ。ポンタは肩を左右に揺らした。嬉しさが肩まで来たのである。足を踏めば床の音が入る。そこで靴底を浮かさず、膝と肩だけで踊った。太い眉も上下する。両腕の丸が横長になり、全身が工房の無音の応援旗になった。
ナギは録音機から視線を上げた。ポンタは口を一文字にして、さらに真剣に揺れた。静かであることと、目立たないことは別だった。時計の針を見ようにも、その後ろで大きな祝福が通り過ぎる。
「声は出してない」
ポンタは口の形だけで訴えた。ナギは何も言わず、録音を続けた。修理の成功を喜ぶ人まで止める規則は、まだ作っていない。
一分ぶんが録れた。ナギが停止ボタンへ手を伸ばす前に、ポンタの動きがぴたりと止まった。彼女の白い靴の先が、小さく左右に揺れていたからだ。上半身はまったく動かない。顔も仕事の顔のまま。それでも足先だけは、彼の拍子を正確に追っていた。
ポンタは自分の靴を見て、ナギの靴を見た。二人は同時に止めた。時計だけが律儀に働き続ける。
録音を終えたナギが、ようやく口を開いた。
「音量は、合格」
ポンタは満面の笑みで、最後の無音の拍手をした。ナギの靴先も、もう一度だけ賛成した。
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