S019 車輪の弁護人

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備
985字・約2分
作業台の上に、大きな台車用の車輪が一個置かれていた。誰も触っていないのに、少しずつ右へ動く。ポンタは逃げ出す車輪を手で戻し、ナギへ知らせた。
「この子、持ち場を離れる」
「台が傾いてる」
ナギは即答した。ポンタはうなずいたが、車輪を台の中央へ置き直した。丸いものを見ていると、人の顔に見えてくることがある。今日は、その顔がたいへん疑わしかった。
「被告は、前へ」
ポンタが言うと、ナギは眉を寄せた。
「前へ行ったから困ってるんでしょ」
「じゃあ、被告はそこへ」
車輪はじわじわ右へ行った。ナギは机の右端にある厚いゴムの止め板を確かめた。転がっても床へ落ちない。危険がないなら、昼前の短い裁判に付き合う余地はある。彼女は車輪の左側へ立ち、手のひらを開いた。
「被告に、自分で動く能力はない」
ポンタは反対側へ回った。
「現に今、動いております」
車輪は二人の間をゆっくり進んだ。弁護の立場が危うくなる速度だった。
ナギは台の脚の下に、いつもの水平調整用の板を差した。台がまっすぐになる。車輪は止まった。
「環境によるものです」
「本人は黙秘ですね」
ポンタの声が妙にまじめなので、ナギもまじめな顔を保った。車輪には口がない。しかし説明するまでもなく、今日はそういう決まりになっている。
台の傾きの試験は、すでに終わっていた。ポンタは車輪の左右を確かめ、軸の歪みがないことも確認した。実際の仕事と裁判ごっこを交互にするので、どちらの顔も長続きしない。
「それでは」
ナギが片手を上げた。ポンタは背筋を伸ばした。
「無罪」
ポンタが、よかったね、と車輪へ笑いかける。ナギは調整用の板を抜いた。試験台は元の傾斜へ戻る。車輪は再び右へ進み、二人の正面を静かに横切った。
二人は何も言わず、その移動を見送った。丸い被告には、無罪のあとも付き合う義理がないらしい。右端のゴム板へ当たり、軽く止まる。ポンタは横顔で車輪に会釈した。
「退廷が早い」
ナギはようやく笑った。
車輪は台車へ取り付けるため、ポンタが持っていった。台の傾きはナギが直すことになった。道具の責任ではないと分かった以上、そのままにはできない。彼女が脚を調整していると、ポンタが作業台へ深くお辞儀をした。
「次の被告、準備いいですか」
ナギは顔を上げずに、彼の靴の方へ指を向けた。
「それ以上、裁判を増やさない」
彼は両手を上げた。今日は人間だけが、なかなか解放されなかった。
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