S020 閉店の予告編

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備
962字・約2分
閉店まで、あと三分だった。工房の床はほとんど片付いている。残っているのは、台の前に落ちた小さな紙片だけ。ナギは戸締まりを確認し、ポンタへ短いほうきを渡した。
「最後の一件」
ポンタは受け取って、急に真剣な顔になった。
「任せて」
ただ掃くのなら一秒で済む。しかし彼の頭には、一日の仕事を締めくくるにふさわしい音楽が鳴ったらしい。ほうきを腰の横へ構え、工房の奥を見据えた。見据えた先には、小さな紙片が一枚ある。
ナギは鍵を持つ手を止めた。ポンタの立ち姿に、これから大きな困難を越える人の気配があった。相手の厚さは、紙一枚ぶんだ。大きさに違いがありすぎて、つい続きを見たくなる。
ポンタは一歩だけ前へ出た。いつもの歩き方より少しゆっくり。黄土色のカーディガンの裾が揺れ、ほうきが斜めの線を描く。ナギは彼の横を通ろうとして、半歩下がった。舞台に入る順番を、自然に守ってしまった。
「まだ終わっていない」
彼は低い声で言った。
「うん、一枚ある」
ナギは普通の声で答えた。
窓の明かりが床へ細く伸びていた。ポンタはその線を越え、ほうきを両手で持った。紙片は動かない。何の抵抗もしない相手が、決戦の場所で律儀に待っている。
彼は片膝を少し曲げた。ほうきを床に置き、息を整える。ナギはちり取りを構えた。彼女の方はいつもの作業姿勢だが、二人で構えるといよいよ重大な作戦に見えた。
ポンタが大きく踏み込んだ。ほうきは広い弧を描くのではなく、床へ接したまままっすぐ進んだ。正確な一掃き。小さな紙片が滑って、ちり取りへ入った。
何も壊れなかった。ほこりも舞わなかった。紙片だけが場所を変えた。
ポンタは一拍止まり、ほうきを立てた。ナギも、ちり取りを持ったまま静止した。終わった仕事の量に比べ、達成感が非常に大きい。
「完了」
ポンタは言った。ナギはちり取りの中を見た。紙片は本当に一枚だけだった。
「続編は、明日のほこり」
ポンタは笑って姿勢をほどいた。
ナギが照明を落とすと、二人は入口へ向かった。ほうきは元の場所へ戻り、鍵が掛かる。外へ出るまでの手順は普段と同じだったが、ポンタの足取りは主演のように堂々としていた。
翌日の掃除当番を思い出し、ナギは言った。
「明日は私が主役」
「観客やるね」
「ちり取り持って」
ポンタはうなずいた。工房の大作映画には、主演が二人いて、観客はいなかった。
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