S023 透明の大仕事

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備
967字・約2分
窓口の横に、細いガラス棚があった。朝の光がまっすぐ入ると、縁までほとんど見えなくなる。スミはそこを丁寧に磨き、乾いた布を畳んだ。棚に置いた空のカップだけが、腰より少し高い場所に浮いて見える。
リヒトが奥から戻ってきた。彼は棚の前で掌を開き、小さな魔法の輪を作った。少し前にカップを浮かせて片付けたので、その術がまだ残っていると思ったのだ。
「もう、下ろして大丈夫です」
スミが言う。リヒトはうなずき、掌を静かに閉じた。輪が消える。カップは同じ場所にあった。
リヒトは一瞬だけ眉を寄せた。自分の術の終わらせ方を間違えたとは考えにくい。もう一度掌を開いて確認し、輪を消した。やはり同じ場所にある。スミは何も言わず、畳んだ布を手に持っていた。彼の真剣な顔を邪魔しないようにしているが、口の端だけが上がる。
「安定していますね」
リヒトは慎重に言った。
「ものすごく」
スミも慎重に答えた。
カップは揺れない。高すぎも低すぎもしない。リヒトが一歩横へ進むと、カップのすぐ下に細い光の線が見えた。さらに少し斜めから見る。透明な棚の前縁だった。背後の壁へ固定された支えも、今なら分かる。
カップは最初から棚に載っていた。大きな魔法使いが術の成績を確かめていた場所で、受付の小さな掃除が完璧に終わっていたのである。
リヒトは掌を開きかけて、下ろした。これ以上確認する相手は魔法ではない。スミの布を見た。白い布も、たいへんきれいに畳まれている。
「これは、あなたの」
リヒトが言いかけると、スミは布を少し掲げた。自分の小物が魔法の輪の代わりになる日が来るとは思わなかった。彼の見せ方を少し真似して、布を掌の上へ置く。もちろん浮かせない。
「私の魔法、窓拭きです」
リヒトはしばらくカップと布を交互に見て、それから素直に頭を下げた。スミはつられて小さくお辞儀した。棚の上のカップは、二人の実演を見ても動かなかった。
次の客が来る前に、スミは棚の縁へ目印の細い木の棒を置いた。触れなければ分からないほど磨けたのは嬉しいが、客まで物が浮いていると思うと話が増える。
リヒトはその棒を魔法で運ぼうとして、手で持ち直した。スミの仕事の仕上げには、今日は普通の手が似合う。
棚の前で再び掌を開いたのは、お辞儀の続きをするためだった。スミは布を持つ手を軽く振って、今度はちゃんと褒め言葉を受け取った。
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