S028 お礼のラリー

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備 / テーマ創作
965字・約2分
ハルはカフェから借りた小さなトレーを返した。花屋の鉢を運ぶとき、床へ水を落とさないように使ったものだ。イトは乾いたトレーを受け取り、机の上へ置いた。
「きれいにしてくれて、ありがとう」
ハルが軽く頭を下げる。
「貸してくれて、ありがとう」
イトも頭を下げた。用件はそこで終わった。
終わったはずなのに、イトの礼が、ハルの礼より少し深かった。ハルは反射的にもう一度うなずいた。彼女が丁寧に受け取ってくれたことへのお礼だ。イトはそれを見て、さっきより少しだけ深く頭を下げた。借りた物を大事にした人には、こちらも丁寧にしたい。
「どうも」
「こちらこそ」
二人の返事が、小さな球のように机の上を行き来した。
イトは顔を上げ、ハルを見た。ハルも顔を上げて、彼女を見た。先に帰るように言うと、追い出すことになりそうだ。もう一度だけ礼をして締めよう。二人は同じことを考えた。
ハルが背筋を伸ばし、上体を曲げた。イトも背筋を伸ばし、さっきより深く曲げた。顔を上げる途中、相手の頭がまだ低いのが見えた。自分だけ先に戻るのは、どうにも落ち着かない。二人は途中まで戻って、また下がった。
カフェには誰もいない。客への挨拶なら、こんなに往復しない。閉店後の小さな机を挟み、二人がそれぞれ礼を増やしている。トレーの水気はとっくに乾いているし、貸し借りの記録もいらない。ただ、相手に対して雑に終わらせたくない。
イトの低い一つ結びが前へ揺れた。ハルのくせ毛も前へ揺れた。最後には、二人ともかなり深い姿勢で止まった。床を見ながら、イトが言った。
「お礼、返ってくる」
ハルが少し笑う気配がした。
「ここで終了にしよう」
イトは頭を下げたまま提案した。ハルは同じ姿勢で賛成した。
「せーの、で」
二人が同時に顔を上げる。そこで目が合って、つい笑った。胸を張って頭を下げる動作より、普通に笑う方がずっと楽だった。
ハルは入口へ歩いた。イトはトレーを棚へ戻した。小さな貸し借りを、ずいぶん大きく扱った一日になった。けれど、丁寧すぎて困ったことを、二人とも少し気に入っていた。
ハルが振り向き、最後に片手を上げる。イトも片手を上げる。頭は動かさない。別れの挨拶を一回で終わらせる、今日見つけた新しい方法だった。
入口でハルがもう一度礼をしそうになり、二人とも止まった。今度は、その途中の顔の方がおかしかった。
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