S029 花にだけ練習

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備 / テーマ創作
972字・約2分
閉店後の机に、黄色いチューリップが一輪あった。ハルは花の前で、背筋を伸ばした。花屋の仕事では、相手に似合う花を選ぶのは難しくない。相手と一緒にどこかへ行くための言葉は、別の棚にあるらしい。探すと、やけに長い文が出てくる。
「明日の空いている時間に、もし差し支えなければ」
ここまで言って、ハルは止まった。チューリップは何も言わない。確認相手としてはたいへん優秀だが、手応えがない。
イトは奥の棚から帳簿を取り、入口へ戻ってきていた。ハルがまだ机にいるので、声をかけようとした。けれど、その横顔があまりに真剣だったため、足を止めた。目の前にあるのは花一輪。新しい花の売り方を考えているのかと思った。
「同じ場所へ、二人で」
ハルは続けた。イトの手が帳簿の表紙で止まった。売り方の話ではなさそうだ。
ハルは顎へ手を寄せた。言葉を整えようとすると、相手の予定を確認する項目ばかり増える。待ち合わせ、場所、時間。決めるものはあるが、最初に伝えるものはもっと簡単なはずだった。
彼はチューリップを見た。この花を渡すときは、相手が喜ぶかどうかを考えて選ぶ。その後は、渡すだけだ。
「明日、一緒に行こう」
やっと普通の一行になった。
イトは後ろでうなずいた。ちょうどよい長さだった。彼女が聞こえない場所にいると思われているなら、今は練習の相手を一人増やせる。
「うん、行く」
彼女は、いちばん短い返事をした。
ハルはチューリップを見たまま止まった。花が答えるわけではない。後ろの声を知っているので、誰の返事かはすぐ分かった。振り向く前に、耳が赤くなった。
イトは机の横へ来た。帳簿を置き、花とハルの間に割り込むのではなく、隣へ並ぶ。彼が最初から彼女へ言ったときと、同じ場所になる。
「練習、終わり」
ハルは一度息を吐いて、笑った。
「どこから?」
「二人で、のところ」
長い前半が聞かれていなかったことに、彼は少しだけ安心した。短い後半は、ちゃんと返事まで付いている。
明日の時間を決める話は、普通の言葉でできた。場所を二つ挙げ、二人で一つ選ぶ。確認する項目が同じでも、誘いが届いたあとなら、もう事務的すぎるとは感じない。
話が終わると、イトはチューリップへ向かって小さく頭を下げた。
「代役、ありがとう」
ハルもつられて会釈した。花は最後まで黙っていた。相手の返事を奪わない、たいへんよい練習役だった。
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