S030 影のハイタッチ

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備 / テーマ創作
944字・約2分
カフェの閉店札を裏返すと、イトは店の前へ出た。隣の花屋も片付けを終え、ハルが入口へ立っている。今日は二人とも予定より早く終わった。どちらが先に戸締まりを済ませるか、昼に軽く勝負をしていたが、時計の針は同じ分を指していた。
「同着」
イトが言うと、ハルは両手を開いた。
「おつかれさま」
勝ち負けの代わりに、今日は普通の挨拶ができた。
夕日は通りの横から差していた。二人の影が、入口前の明るい地面へ長く伸びている。ハルが片手を上げる。イトも片手を上げた。離れているので、実際の掌は触れない。けれど地面を見ると、伸びた二つの影の先が近かった。
イトは手の角度をほんの少し変えた。影の指先が、ハルの影の掌へ届いた。
「あ、合った」
ハルも地面を見た。
二人は、そのまま手を上げていた。視線は相手の顔ではなく、足元よりずっと先の影へ向いている。影でハイタッチをするなら、手の場所を動かして確かめればいい。手の小さな動きが、地面では大きくなる。イトが掌を少し戻すと離れ、また傾けると重なる。
ハルも指先の向きをそろえた。今度は二つの影が、掌の形でぴたりと合った。実際の二人は一歩以上離れている。夕日が作った挨拶だけは、たいへん親しい距離だった。
イトは顔を上げた。ハルも顔を上げる。互いに片手を上げたまま、微妙に笑いをこらえていた。近づけば普通にできることを、遠くで精密に合わせている。彼女は数字やゲームには強いが、こういうときの距離の決め方は、影の方が迷わない。
「影は、もう仲良し」
イトが言った。
ハルは地面へもう一度視線を落とし、すぐに彼女へ戻した。
「本人も、ここにいるよ」
イトは片手を下ろした。ハルも下ろした。影のハイタッチは、静かにほどけた。二人は半歩ずつ近づき、今度は同じ側へ向かって歩いた。実際の手で挨拶をやり直す必要は、もう感じなかった。
入口の前に残った影は、歩く二人と同じ速度で進んだ。イトは、ときどき地面を見た。ハルは、ときどきイトを見た。どちらかが見るたびに、もう片方の視線と一瞬だけ合う。
「さっきの、同着ってことで」
彼女が言う。
「うん」
ハルは答えた。
勝者がいない日にも、二人で終える形はある。影を先に合わせてから並ぶことも、その一つだった。イトは次に手を上げるとき、たぶんもう距離を測らないと思った。
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