星猫くるる HOSHINEKO KURURU

S033 修繕係の休業日

受付の澄がパンフレット立てを移し、休日の律が弁当と帽子を持って帰る。

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / 体裁が未整備 / キャラクターデザイン無し

3,630字・約8分

S033-1 S01 鈴の声

糸窓座の入口の案内は、三行でひとつの約束だった。『修繕係は本日休業』『受付はいつもどおりです』『お預かりのみ。修理は明日から。』。ところが前夜、案内板の下へ移されたパンフレット立てが、三行目だけを隠していた。この朝、最初の来客を迎えた時点では、内側に座る受付係の澄も、修繕係の律も、そのことを知らなかった。

澄は受付の鉛筆を削り、予約帳の今日の欄を開いた。糸窓座では、公演のない日も、近くの催しで使う小道具を預かっていた。直す人が休みの日に物だけ預かるのも、いつもの仕事だった。昨日書いた案内には、そのつもりで三行を使った。受付の椅子から見えるのは案内板の白い裏だけだが、表に書いた言葉は覚えている。

窓口の下には、修繕の預かり札と、青い貸出票が別々に並んでいた。貸出棚の鈴、椅子、無地の看板は、先週の点検を済ませている。澄にはそれらを貸す権限がある。修理の約束までしなければ、一人でも困らないはずだった。

開館とほとんど同時に、律が入ってきた。仕事着ではなく、袖口の柔らかなシャツで、受付の脇に置き忘れた弁当包みを探している。棚の上に見つけたところへ、喫茶室の実乃が小さな鈴を両手で持ってきた。

「鳴らない鈴です。今日のお茶の時間までに、声を戻せますか。」

実乃は鈴を受付に置き、指先で押した。金属の笠はきれいに光ったが、音はしなかった。澄には、それがよく磨かれているぶんだけ、返事を考えこんでいるように見えた。

「修理は明日からです。今日はお預かりだけで。」

「でも、受付はいつもどおりって。」

実乃の視線が澄を通り越した。律は片手に弁当包み、もう片方に、それを持つために外した帽子を持っていた。どちらも工具ではなかったが、顔はいつもの修繕係だった。

「僕は弁当を取りに来ただけです。」

「では、お弁当のあとなら。」

「弁当のあとも、休業日の途中です。」

実乃は口を少し開け、それからうなずいた。澄も危うく、食後なら何時になるかと時計を見るところだった。休みというのは、何かを済ませるまでの待ち時間ではない。窓口で毎日時間を約束していると、空いているところを勝手に探してしまう。

「直すことはできませんが、貸すことはできます。」

澄は青い紙を一枚出した。貸出棚から同じ形の鈴を取り、故障した鈴の隣に置く。二つ並ぶと、どちらが仕事を休んでいるのか、見た目だけでは分からなかった。澄は預かるほうに札を結びつけた。

「同じくらいの音なら助かります。大きすぎると、お茶より先にお客さんが立ってしまうので。」

「ここで一度、鳴らしてみてください。」

実乃が押すと、貸出の鈴は一度だけ鳴った。澄の指が、何の用もないのに予約帳の上でそろった。

「これなら、座ったままでいられます。」

実乃は音を気に入ったらしく、もう一度押す代わりに、青い紙に返却日を書いた。澄は故障した鈴を預かり棚に入れた。治ったわけではない。その区別を、棚ひとつぶん離して置く。

律が帽子をかぶり直す前に、入口で二人分の挨拶が重なった。

S033-2 S02 椅子の話

朗読会を開く牧と岸が、椅子を一脚運びこんできた。牧が背もたれを持ち、岸が座面の下を支えている。二人ともゆっくり歩くので、まるで椅子のほうが案内役だった。澄は床の敷物を寄せ、置ける場所を空けた。

「この椅子、開演までにお願いできますか。座ると話が揺れるんです。」

牧が背もたれを軽く押すと、前の脚が一本、床から浮いた。岸はすぐに支えた。実際に座って試すほどではない。澄は預かり札に、脚のぐらつき、と書いた。話の揺れは、書く欄がなかった。

「修理は明日からです。今日はお預かりだけで。」

さっきと同じ言葉を言うと、さっきより定型文らしく聞こえた。一度目には不足していたものが、二度目だからといって補われるわけではない。澄は鉛筆を置いて、二人の顔を見た。

「受付はいつもどおり、とありましたから。いつも、ここから直していただいていて。」

岸は、預かり札を責めるのでなく、窓口から律へと指で短い道を描いた。たしかに普段は、その道の先で律が工具箱を開ける。毎回同じところへ着く道なら、今日も着くと思うのは自然だった。

「今日は、ここまでです。」

律は指の道が終わるあたりに、帽子を持った手のひらを立てた。

「では、ここで座れば。」

「場所の問題でもありません。」

牧が椅子を窓口へ寄せかけたので、澄は先に札の紐を背もたれへ回した。牧はすぐ手を止め、紐が結ばれるまで椅子を支えた。頼み方を探している人に、断り方だけを増やしても仕方がない。

「直すことはできませんが、貸すことはできます。」

澄は棚の横に重ねた貸出椅子の一番上を下ろした。律は手を出しかけたが、澄が一人で持てると分かると、弁当の結び目を持ち直した。受付係にも、椅子を運ぶ腕は二本ある。

岸は持ってきた椅子と貸出椅子を横に並べ、背もたれの上に手を渡した。牧は受付に断ってから、貸出椅子の座面の端を押した。四本の脚はそろって床に残った。

「背もたれに布を掛けます。この高さなら使えます。」

「椅子が違っても、話は同じですしね。」

「揺れるところだけ、台本に残してください。」

牧は笑ってから、青い紙に会の名前を書いた。岸は壊れた椅子を預かり棚の脇へ運ぶ許可を求めるように手を添えたので、澄はうなずいた。律の仕事場へ押しこんでしまわない位置に、三人で収めた。

二人が貸出椅子を持ち上げると、さっきと同じ行列になった。今度は脚の動きを気にせずに歩いていく。澄は返却日を確かめ、修繕帳の二行目を埋めた。律は今日、一度も工具を持っていない。なのに、二度、休みを取り直している。

澄は案内板の裏を見た。文字を大きくしたほうがよかったのかもしれない。けれど、二組とも、受付についての一行は正確に覚えていた。読み飛ばしたと決めるには、そこだけが妙にくっきりしている。

律がようやく弁当を胸の前に抱え、入口へ向いた。その向こうから、大きな矢印が入ってきた。

S033-3 S03 矢印の行先

矢印を運んできたのは、展示会担当の千景だった。折り畳み看板の片側を紐で支えている。紐の端を外さないまま床へ置くと、矢印は受付ではなく、斜め下の傘立てを指した。

「この矢印、六時までにまっすぐになりますか。」

緩んだ蝶番のところに、千景が指を添えた。澄は修繕帳の三行目に看板と書いた。今日の受付には、音、話、行先の順で不都合が集まってくる。次を待つのではなく、ここで同じ説明の往復を止めたかった。

「修理は明日からです。今日はお預かりだけで。」

千景は律の顔を見て、それから入口の案内板へ振り返った。澄は自分が昨日選んだ言葉を、頭の中でもう一度読んだ。受付という短い言葉に、預かるところから直るところまで、全部を詰めてしまっているのだろうか。

「あちらには、受付はいつもどおりです、と。あの二行で全部ではないんですか。」

二行。澄は鉛筆を置いた。千景の指の向きをたどって窓口の外へ回り、客と同じ位置に立つ。案内の下半分には、公演のパンフレットが扇のように広がっていた。前夜、閉館の片づけで自分が移した立てだった。澄は立てを両手で持ち上げた。その後ろから、自分の字で書いた『お預かりのみ。修理は明日から。』が現れた。

澄はその一行を、声にしないで最後まで読んだ。知っている文章を、初めて読むのと同じくらい時間をかけて。昨日は伝えたつもりだったし、今朝も覚えていた。けれど客に見える場所には、置いていなかった。

「僕の休みは、三行目にあるらしい。」

律が弁当を持ち上げた。千景は紐を握ったまま、小さく笑った。澄も笑って、パンフレット立てを案内板から離れた窓際へ置いた。公演の紹介も見え、修理の日も見える。誰かが注意深くならなければ使えない受付にするより、少し場所を空けるほうが早かった。

それから千景の看板へ戻った。原因を見つけても、蝶番が締まるわけではない。ここで律に一つだけ頼んだら、三行目を見えるようにした意味がなくなる。

「直すことはできませんが、貸すことはできます。」

澄は貸出棚の無地の看板を示した。足元の留め具を開いて固定し、千景に表面を向ける。看板用の拭き取れるペンも、貸出票と一緒に渡した。

「同じ行先を書いていいなら、こちらで十分です。」

千景は展示室の名を書き、矢印を横に引いた。書き終えるまで、澄は修繕の看板の紐を押さえた。律は受付から一歩離れたところで待っていた。手伝わないことが仕事になる場所から、そろそろ出してあげなければならない。

「今日直すべきだったのは、受付のほうでした。」

「それなら、僕が休みでも直せます。」

千景は三行とも見える案内をもう一度読んでから、貸出看板を持って出ていった。澄は青い貸出欄を三件で締めた。預かり棚には鈴、椅子、看板が残り、修理済みの欄は空白のままだった。それで、今日の帳簿は正しい。

律が帽子をかぶった。今度は澄も、帰り際に何か思い出そうとはしなかった。入口の案内の三行目は、読む人に向いている。

修繕係は、ようやく何も直さずに帰った。

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