星猫くるる HOSHINEKO KURURU

S063 星を消さない一分

プラネタリウムの二人が操作卓から名前の帯のない星空を見る。

AI が作成 / 人間が未査読 / コンセプト・ターゲット無し / キャラクターデザイン無し / 体裁が未整備

8,089字・約17分

S063-1 S1 透明な帯

十七時四十分。私は操作卓の時計と、自分の腕を交互に見た。腕に時計はしていなかった。いつもの癖だけが残っていた。公開回の終わった岬丘プラネタリウムには、私と真砂の二人しかいない。今日で閉館する。十八時に館内の最後の投影を始め、十二分で終える。十八時二十分には主電源を切る。その時刻を、紙の運転記録の余白にも鉛筆で書いた。
三十八歳の私と、四十七歳の真砂は、この館で七年働いた。何回分という数を今ここで計算する気にはなれなかった。計算を始めれば、正確な数を確かめるために別のものを開かなくてはならない。今は目の前の卓と、これからの十二分だけを扱いたかった。手順は紙に載っている。その紙の最後にある空欄が、今日はやけに広かった。
真砂は解説の台本を卓に置き、上着を操作席の背に掛けた。背もたれから袖が一本下がった。私はその袖を椅子の外側へよけて腰を下ろした。椅子の高さも、開始ボタンまでの距離も、昨日までと同じだった。膝を卓の下へ入れると、鉛筆を持った手だけが机の上に残った。
「名前を残してから、電源を切りたい。」
真砂の声は、まだ明るいドームの天井に上がった。私は鉛筆の先を紙から浮かせた。担当者名を出す設定は、そのままになっている。最後の一分、星図の中央に白い帯が出て、そこに私たちの名前が載る。卓上の透明なシートにも、同じ帯と二つの名前が印刷されていた。
「最後の一分にも、星は出ています。」
自分の声が少し高かった。言い終えてから、鉛筆を紙の横に置いた。星の時間は十一分で終わるのではない。十一分から十二分までの一分も、星は天井に残る。動かなくなるだけだ。その静かな一分を、私は準備してきた。名前が出れば、中央の星は白い帯の下になる。
「まだ決めなくていい。位置を見よう。」
真砂は透明なシートを卓の中央に置いた。
卓上灯がシートの端に細く映った。真砂の名と私の名は同じ大きさで、間に小さな点があった。どちらが先に読まれるかという順序より、そこに二つとも載っていることが目に入った。私はシートに指を置かず、いったん両手を膝に戻した。
名前が空に出ることを、私は嫌っているわけではなかった。私の名前もその帯にある。けれど最後に覚えておきたい空の真ん中に、自分の文字があるところを想像すると、文字の縁ばかりを見てしまいそうだった。星だけを見たい。そう言えば済むはずの希望に、まだ言葉を一つ足したくなった。私だけの最後ではない。
卓の向こうに、固定された客席の背が円を作っている。中央の投影器を囲む椅子は、空席でも同じ向きに傾いていた。非常灯の緑だけが、出入口の輪郭を先に示していた。私は名前の設定を開き、まだチェックの入っている欄を見た。チェックを外すのは一度の操作で済む。その一度を、位置の確認より先にする必要はなかった。
私は透明なシートを台本の横へ動かした。紙より薄いのに、端をつかむと少し抵抗があった。時刻画面は十七時四十一分になっていた。試験用の星図を呼び出す。卓の明かりに照らされた二つの名前を、私はもう一度読んでから、ドームの照明を落とした。

S063-2 S2 覆われる星

十七時四十八分、試験の星が天井に出た。最終一分と同じ、動かない星図だった。白い点をいくつか目で追ってから、私は名前表示を重ねた。真ん中が帯になった。帯の上には名前がはっきり読めて、その下にあった点は見えなくなった。装置は正しく動いていた。正しく動くから、隠れる場所も正確だった。
真砂は卓の前から客席へ回った。私は操作席を立ち、出入口に近い椅子の横に立った。ここからはドームを斜めに見る。文字の端が少し遠くなるだけで、帯は空の中央に残る。中央の投影器の影と、名前の帯は別のものだった。投影器をどかしてどうにかなる話ではなかった。
「この帯の下は、見えなくなります。」
私は手で天井を指ささずに言った。指を出せば、自分の指先も星を隠す。自分の体が遮るのは、その場所を離れれば元に戻る。帯は表示を続けるかぎり、見る位置を変えても消えなかった。私は一脚分だけ横へ歩き、同じ二つの名前を見上げた。
真砂は客席の間から卓へ戻り、シートを取り上げた。透明な部分を天井へかざしても、実際の帯とは重ならない。シートは確認のためのものだから、投影器には入れない。彼は卓上灯を点け、シートをその光の下に置いた。
「名前を小さくしても、この場所は覆うね。」
真砂はシートに印刷された帯の縁を、人差し指でなぞった。
指は左端から右端まで行き、透明な部分で止まった。私はその細い境目を見た。名前の文字を少し小さくすることと、名前を載せる場所をなくすことは違う。境目の外には、確かに透明な部分がある。しかしこのシートの透明さを、天井の白い帯に持ち込む操作はない。
「映すか、外すかの二つです。」
言ってから、私は自分の言葉が硬く聞こえた。機器の選択肢は二つでも、選ぶ人の気持ちまで二つに仕分けることはできない。名前を残したいという発話と、星を見たいという私の希望は、どちらもこの卓の前にあった。名前を表示したまま星を見て終える、と言うこともできる。ただし、その空は中央の帯がある空だ。
真砂はシートを平らにした。指を離すと、少し反っていた端がまた浮いた。私は客席の椅子に一度だけ腰を下ろし、背もたれに体重を預けた。この角度なら空が広い。名前も広い空の一部分になる。目を細めてみても、白い帯が星になることはなかった。
私は星だけの画面に戻した。名前のあったところに、点が戻った。帯の前後で星の位置は変わっていない。点と点の間には黒いところがあり、その黒さまで、さっきは白い帯に置き換わっていた。見えていなかったのは星だけではない、と私はここでようやく気づいた。何も出ていない場所も、この空には要る。
卓へ戻る途中の段差で、足を止めた。私は薄明かりのうちに段の縁を見てから上がった。最終投影中に歩き回らずに済むよう、今のうちに自分の席を決めておく。客席で見ることと、卓で終わりを確かめることを、今日は同時にはできない。私は操作席に座り直した。
試験を止めると、星の点が一度に消えた。ドームの照明を戻した。真砂の持つシートには、まだ二つの名前が残っていた。投影を止めても紙の上の文字が消えないことは、当然だった。その当然のことを、私は少し長く見ていた。シートを台本の下へ入れず、二つを横に並べて、次の確認へ進んだ。

S063-3 S3 十二分の枠

十七時五十三分。真砂の台本には、十一分と十二分の位置に鉛筆の線が引いてあった。十一分の線の前に、最後の解説の文がある。そのあとの一分には、新しい言葉を入れない。私は線の間を指で測った。紙の上では指一本ほどでも、投影では一分だ。長さを指で測るのは間違っている、と自分で思って指を引いた。
星図を動かさず、明るさだけ確かめる。真砂がつまみに手を置き、少し下げた。ドームの縁が暗くなり、星の輪郭は残った。私は卓の時刻画面に目を戻した。画面の数字は、上の星と別の明るさで光っていた。この数字を見ないようにすることはできない。最後の投影を終えるのは、空だけを見続ける仕事ではなかった。
「十二分のあとに、もう一回は足さない。」
真砂は台本を開いたまま言った。私は開始の予定時刻を見た。十八時から十二分。そのあと八分で、記録を埋め、主電源を切り、卓を離れる。今決めたことを実行する時間はある。全部終えてから、まだ別の最後を探す時間は作らない。
「十八時二十分には、主電源を切ります。」
私は余白の数字を鉛筆の腹で押さえた。紙が少しへこんだ。電源を切る時刻があるので、名前を星のあとへ回すなら別の時間を使うことになる。そういう組み替えを今日はしない。星の時間も、名前を出す場所も、知っている範囲のまま選ぶ。できない工夫の話を始めれば、十二分の始まりが後ろへ動いてしまう。
「星の時間は、削らずに使おう。」
真砂はつまみから手を離し、台本を閉じた。
台本を閉じる音は小さかった。ドームではその音にも、すぐ消えない短い尾があった。私はつまみの位置を確かめてから、星の試験を終えた。これで明るさの確認は済んだ。台本の十一分の線も、十二分の線も動かさない。最後の文の後ろには、書かれていない一分が残る。
私は閉じた台本の上に鉛筆を置こうとして、運転記録の横へ戻した。鉛筆をそこに置く習慣は、これまで何度も体を助けた。暗くても手を伸ばせば触れる。今日だけ別の位置へ置いて、探す時間を増やすことはなかった。終わりのために特別な仕草を作らなくても、手は十分に忙しい。
真砂は操作席の背から上着を取り、腕に掛けた。袖が今度は床に届かなかった。私は空いた背もたれに背中をつけた。終わりまで座る席が決まると、何を見落とすのかも分かった。客席から見える円い全景はここから少し斜めになる。それでも、中央の帯が出るかどうかは分かる。私はこの席で選んだ結果を見る。
時刻画面の十七時五十四分を読んだ。さっきまで終わりまでの時間を見ていたのに、今は開始までの六分が目に入った。準備を一つ終えるたび、最後へ近づくことと、始まりへ近づくことが同時に起きる。時計を止めないかぎり、その片方だけを長くすることはできなかった。
運転記録には、開始と終了の時刻を書く欄の下に、担当者の氏名欄がある。私はそこに、まだ何も書かなかった。署名を先に済ませれば手順は減る。しかし今日実際に何を出したかの欄も、その時点では空欄のままだった。私は白い欄同士を眺め、用紙を台本の手前へ引いた。透明なシートはその右に残した。

S063-4 S4 紙の署名

十七時五十七分。私は用紙の向きを変え、氏名欄が真砂からも読めるようにした。名前を表示するかどうかは、時刻画面の隣で選べる。星のプログラムを選び直す必要はない。チェックを外せば中央の帯は出ず、十二分の星はそのままになる。私は画面と用紙の間に鉛筆を置いた。
これまで紙を埋めることと空を作ることは、別の仕事として扱っていた。記録を整えるときには上を見ず、星が出ている間は記録の欄を数えない。今日は用紙に名前を書けるということが、天井に何を出すかの選択につながっていた。氏名欄は小さい。ここに書いた文字は、座席から見上げても読めない。
私はその小ささを、欠点ではないことにしようとしていた。小さくても残る。けれど大きく見えることと、小さく残ることは、同じではない。私が選ぶ言葉を柔らかくしたところで、真砂が最初に言った「名前を残す」の形を、一つ失う事実は変わらない。自分に都合のよいところだけを先に説明して、返事を取りたくはなかった。
真砂は画面のチェック欄を指し、その指を卓の上へ戻した。
チェックは入ったままだった。彼の指が画面を指したことと、設定が変わることは別だ。私の手はマウスの横にあり、まだ触れていなかった。真砂の手と私の手の間には、紙の端があった。用紙を回したために、それまでより少し狭くなった場所で、二人の手が止まっていた。
「名前はここへ二人で書いて、空には出さない。それで終えていいですか。」
最後まで言ったあとで、私は息を吸った。提案と確認を同じ文にしたので、長くなった。言い直すほどの間違いはなかった。名前を残すこと、空に出さないこと、二人で書くこと。その全部を聞こえるように言えた。どれか一つだけが伝わればよい文ではなかった。
真砂は用紙を見た。それから私のほうへ顔を上げた。私は手をマウスへ移さずにいた。言葉を置いたあとに、先に操作で答えを作ることはできる。けれど、それでは質問の形で言った意味がなくなる。返事が出るまでは、帯のある設定をそのまま残した。
「それで終えよう。僕の名前も、ここに書く。」
私は一度うなずいた。名前の場所と、終え方への返事があった。紙に二人分を書くことも、もう私だけの案ではない。合意の言葉を何度も言わせる必要はなかった。一度聞いた文を、自分の手の次の動作へつなげる。そのために、私は画面の欄をもう一度読んだ。
「表示を外します。」
私はチェックを外した。小さな枠が白くなった。星のプログラム名と、十二分という長さは変わらなかった。帯を消すために押した場所は、帯のあった天井とはずいぶん遠い。私は画面を拡大したり、見やすい別の表示へ変えたりせず、空の枠をそのまま見た。
消しゴムには手を伸ばさなかった。紙にはまだ消す文字がないし、透明なシートの名前も消す必要はない。シートを台本の横に置いたまま、運転記録を元の向きへ戻した。開始前に確認する欄は埋まっている。残った欄は、始めた時刻と終えた時刻、それから実際に出したものと名前だ。
時計が十七時五十八分になった。あと二分。真砂は上着を卓の端に置き、台本を開いた。私は開始ボタンの横に手を置いた。チェックのない枠は視野の端に入っていた。一分のための選択は済んだ。まだ投影していない空について、それ以上の結論を書き足さず、私は開始の時刻を待った。

S063-5 S5 星だけの一分

十八時になる直前、私は開始ボタンの縁に指をかけた。画面の数字を読んでから押す。それだけの動作に、何か別の意味を追加しないよう、手順を一つずつ心の中で言った。数字が変わった。台本を開いた真砂が、操作卓の隣に立っていた。
「始めていいよ。」
真砂は操作席の横から、一歩離れた。
上着は卓の端に残っていた。私の肘が触れない場所にある。真砂の手には台本があり、私の指の下にはボタンがある。どちらかの手に二つともまとめて持たせることは、今日はしなかった。私は数字をもう一度見て、声を出した。
「始めます。」
開始ボタンを押すと、明かりが落ち、星が出た。中央の投影器の音が、空いたドームに低く続いた。私は時計を見た。十八時零分。紙に今すぐ書くかわりに、その数字を頭の中で読んだ。紙の白さを照らすのは、星が終わってからでよかった。
星の点がゆっくり位置を変える。私は卓から見えるところを見た。真砂は台本の頁に指を添えていた。私はその指の動きと、画面の時間を交互に見て、それから天井へ戻った。空の端まで一度に見ようとすると首に力が入る。力を抜いて、見える範囲に目を置いた。
七年という長さは、この十二分の中へ入らなかった。私はそれでいいと思った。長く働いたことを十二分に縮めて証明する必要はない。今出ているのは、今選んだ星のプログラムだ。過ぎた時間全部の代わりに見るものを探すより、その星を見ていたかった。
時計の数字は動くが、私が何度も確かめるあいだに、上の空も動いていた。どちらかを見るたびに、もう片方の少しを見逃す。それを失敗と数え始めれば、最初から最後まで失敗になる。私は開始を押した指をボタンから離し、膝の上に置いた。押し直す仕事はなかった。
真砂の台本が、頁の重なった側だけ白く見える。書かれた文は卓から読めなかった。十一分の印の場所は、私も知っている。目を上げていられる時間に、自分の知っている手順をもう一度追い直すのはやめた。始まった投影を、頭の中で準備段階へ戻すことはしない。
やがて星の動きが止まった。十一分の数字が画面に出た。真砂が台本から顔を上げた。
「ここに映る空は、これでおしまいです。」
声のあと、空は残った。中央に名前は出なかった。帯のあった位置を目で探し、そこにも星と黒い間があることを確かめた。一つの点を見つめすぎると、周りが見えなくなる。私は目を少し動かし、点と、その隣の何もないところを一緒に見た。
名前が出ないと知っていても、何も出てこない最初の数秒には、小さな驚きがあった。画面では枠を一つ白くしただけだ。その操作の結果が、ここでは一分の空になる。私はその一分を、自分の名前のない場所としてではなく、いま目に入る広さとして見ようとした。
真砂は台本を下ろした。足の位置は変わらなかった。私も座ったままだった。上を見上げる二人の間には卓の端があり、その先には空席の円があった。私の希望は言葉になり、返事があり、操作になった。今、名前の帯が出ていないことは、その三つがつながった結果だった。
最後の秒を声にして数えなかった。残りの長さを数字で見れば分かるけれど、今度は天井から目を離さずにいた。消える瞬間を見られなければ、その瞬間をもう一度作ってもらうことはない。見続ける目にも乾きが来た。私は一度まばたきした。
十八時十二分、星が消えた。私は暗くなった天井を見てから、時計を読んだ。数字はまだ光っていた。指を開始ボタンへ戻さず、卓上灯のスイッチへ動かした。消えたところに別のものを出すのでなく、残った紙を見るために明かりを点けた。

S063-6 S6 鍵の重さ

卓上灯の下で、運転記録が元の白さになった。私は鉛筆を取り、開始十八時零分、終了十八時十二分と書いた。数字を二度見た。画面の数字と紙の数字は、同じ時刻を別の明るさで示している。名前表示の欄に「なし」と書き、担当者の欄に自分の名前を書いた。
「十二分、表示なし。これが今日の記録です。」
真砂は台本を置き、用紙を自分のほうへ引いた。私は鉛筆を用紙の右に置いた。鉛筆が転がりそうになったので、指で止めた。彼が鉛筆を取ってから、私は指を引いた。上ではもう星が出ていない。鉛筆の先を見ていても、空の何かを見逃すことはなかった。
「僕の字で、名前を書いておく。」
真砂は私の名前の隣に、自分の名前を書いた。透明なシートと同じ二つの名だが、文字の形は違った。私の最後の線は短く、真砂の最後の線は少し長い。両方を活字と同じ形に揃える必要はない。字が読めることを確かめれば足りる。私は用紙を半分回し、時刻と二つの名前を読んだ。
真砂は用紙を閉じずに、卓の上に置いた。
用紙には折り目をつけていない。卓上灯を消す前なら、そのまま読める。私は小さな氏名欄へ目を戻した。選ぶ前に小さいと思った場所が、急に大きくなったわけではない。二つの名前を読み終える時間は短かった。その短さで読めるものを、今日はここへ残した。
私は鉛筆を紙の外へ動かした。書いたばかりの線を袖で擦らないよう、手首を少し上げた。名前を空へ出さなかったことを、紙の名前で取り消すわけではない。空に署名はなかった。紙には署名がある。その二つを別々に書ける記録が、卓の上にできていた。
真砂は台本を閉じた。私は運転記録をその上へ重ね、クリップで留めた。透明なシートは台本の下へ重ねた。端から透明な部分が少し見えていた。文字を削ったり、消しゴムを当てたりはしなかった。今日使わなかった表示の名前も、そこにあるままでよかった。
私は重ねた紙を、保管することにしていた棚へ置いた。棚の上では紙が光らない。卓上灯から離れると、字はさっきより読みづらくなった。読める位置まで持ち上げれば読むことができる。それ以上のことを、この紙にさせる必要はなかった。私はクリップが外れていないことを手で確かめ、紙から手を離した。
真砂は上着を取り、袖に腕を通した。私は椅子を卓へ寄せた。座っていた場所が空いた。空席の円の外にあるこの一脚も、空席になった。段差を見るための明かりを残し、卓上灯だけを先に消した。投影器の音がまだ続いていることを、立ってから耳で確かめた。
十八時二十分。私は時計を読んだ。八分のあいだに、今日の記録と名前を残せた。時刻の余白に書き込んだ予定と、今の画面の数字が一致している。私は開始ボタンにも明るさのつまみにも触れず、主電源のところへ手を伸ばした。
「電源を切ります。」
主電源を切ると、画面が消え、投影器の音が止まった。非常灯の緑は残った。その光を見て、段を下りる足の位置を決めた。真砂は出入口の横に立っていた。私は段を下り、ドームの戸を閉じ、鍵を回した。回し終えた鍵は、手の中で小さく冷たかった。
廊下から戸を見ても、中の天井は見えない。二つの名前を書いた紙も見えない。見えなくなったことと、なかったことは同じではない。私は鍵を握り直した。これからのどこに星を映すかは、今日の記録には書かなかった。最後の十二分が終わったことだけを、ここまでの手順で確かめた。
私は鍵を鞄に入れ、真砂と同じ廊下を出口まで歩いた。

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