S080 星見荘の日常三話+ひとくち

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登場人物の外見は仮のデザインです。
2,780字・約6分
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# 星見荘の日常三話+ひとくち
2026年10月の法律案の閣議決定を題材にした物語です。現実に法案が成立・施行されたとは書いていません。
S080-1 一 おにぎりに罪はない
居間のテーブル。オウジ・くるる・ルリカ。2026年10月。
くるるが、テーブルに二枚の札を置いた。「店内で食べる」と「持ち帰る」。その間に、おにぎりの絵を一枚。
「この二つ、何が違うんですか」
「私の世界のお店で食べると、消費税は10%。持ち帰るおにぎりなら8%です」
「おにぎりは同じですか」
「はい。同じものを買うときの話です」
「澪。買い物の練習ですわ。まず、どちらにするか決めませんと」
オウジはおにぎりの絵を、店内の札の上へ動かした。少し考え、持ち帰りの札へ戻した。
「……それって、おかしくね?」
ルリカの鉛筆が止まった。さっきまで丁寧に尋ねていた人の声が、そこだけ素に戻った。
「同じものを食べるのに、座る場所で税金が増えるんですか」
「持ち帰りは食品を買う扱いで、店内で食べるのは外食の扱いなんです」
「ボクは、おにぎりの話をしています」
「私も、そのつもりです……」
「話しても食べても、おにぎりはおにぎりですわね」
オウジは手帳を開いた。『店内』と書き、その下に『持ち帰り』と書く。二つを線で結び、真ん中に丸をつけた。
「分かりました。悪いのは、おにぎりではありません」
「おにぎりが疑われてたんですか?」
オウジは絵を丁寧に持ち上げた。
「では、澪。どちらの札に置きますの?」
「持ち帰りでお願いします」
「断罪は?」
「します。しますけど、ボクのお財布も守ります」
絵のおにぎりは、安いほうへ無罪放免された。
S080-2 二 三十円の時差
同じ居間、別の日のお茶の時間。ルリカ・アーネ・くるる。
ルリカが、買い物の練習用の紙をアーネへ差し出した。食品が税抜きで千円。合計の欄には、千五十円とある。
「ルリカちゃん、ここの三十円は?」
「三十円?」
「くるるちゃんのチラシでは、千八十円になっているの」
「星猫ルリカの常識では、消費税は5%に決まってますのよ」
ルリカは背筋を伸ばした。星猫財閥の令嬢として、五十円の計算に不足はない。
アーネは叱らず、紙をもう一度見た。計算そのものは、合っている。
「ルリカさんのアレでは、消費税は5%だったの?」
くるるが「アレ」と言うと、ルリカの鉛筆がぴたりと止まった。
「……長い夢の、お話ですわ」
「消費税は2014年4月1日に8%になって、2019年10月1日に10%になったの。そのときに食品の税金は8%のままになったんだよ」
くるるは紙の余白に、2014年4月、2019年10月、と二つの日付を書いた。最後に、いまの暦、2026年10月を添えた。
「つまり、ルリカさんは2014年より前だったのね」
「その通りよ」
素の返事が出た。ルリカは小さく咳払いをして、最初の日付より前に『夢』と書いた。三十円の行き先が、やっと分かった。
「星猫ルリカは計算を間違えたのではなく、昔の数字を持ってきてしまいましたのね」
「どの世界のお買い物か、先に書いておけばよかったわね」
「同じ日本のお話に聞こえても、同じ世界の続きとは限らないんです。ここでは、そういう違う世界を『世界線』って呼んでます」
「では、これはくるるさんの世界の、いまのお値段」
千五十円を一本の線で消す。千八十円と書き直すと、アーネがお茶を置いた。
「わたしたちのほうの暦も、隣に書いておきましょうか」
「カードアースは2028年なんだよね。クルルニャちゃんは2年後から来たって言ってた」
「未来なんですの?!」
S080-3 三 隣の世界の一パーセント
居間のテーブル。くるる・サナナ・オウジ。2026年10月、9日の閣議決定のあと。
サナナは、くるるが見ていた食品のニュースを横からのぞいた。オウジの手帳は、その隣で開いている。
「でも、食品の税率って、来年の4月から1%になるって閣議決定されたらしいですよ。サナナさんのとこは8%のままだったんですか?」
「そうだけど?」
「じゃあ、閣議決定が中止になったのかな」
「そんなニュース見た覚えが無い」
くるるは壁のカレンダーを見た。2026年10月。サナナの世界では、もう2028年10月だという。
「サナナさんは、その『来年』より先から来ているんですよね」
「そう。オレのとこじゃ、来年どころか去年の話だ」
「同じ未来へ進むとは限らないんですね。中止になったかどうかも、こっちからは分からないです」
くるるはニュースの日付へ指を戻した。十月九日。来年四月から二年間、という案だ。こちらでは法案が閣議決定されたところで、いま買う食品が一パーセントになったわけではない。
「ということは、減税はうちだけなんですね」
「それっておかしくね?」
「ボクのセリフ取らないでください」
「そっちの税金は下がるし、そっちのセリフだし、オレだけ何もないな」
オウジは一度、手帳を自分のほうへ引き寄せた。サナナがニュースを指すので、また真ん中へ戻した。
「なんでここだけ1%になるの?」
「それはね・・・食品の値段が上がりまくってるからですよ」
「ごはんいくら? パックに入ったやつ」
「3つで500円くらい?」
「お、おう。こっちの世界は大変だな」
S080-4 四 呼んでないけど来てくれる
ひとくちの番外編。居間のテーブル。ギャル・アーネ・ピヨ。
ギャルがピヨの写真を見せた。顔の横に、小さな星が三つ足してある。
「ピヨの顔、星より大きくして」
「はいはい。主役はピヨ、と」
「そう。ピヨは覚えて帰ってほしいわけ」
「あーね」
「はぁい」
向かいの席から返事が来た。ギャルは写真を下げた。
「あ、呼んでない。分かったって意味」
「あら。分かったのね」
アーネはにこにこして、お茶を注いだ。ギャルは写真の星を小さくする。
「それならピヨも、もっと名前を言えば覚えてもらえる?」
「あーね」
「はぁい」
今度はピヨの前にも、お茶が来た。
「……ピヨの紹介なのに、アーネさんばっかり覚える」
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