S085 直す人の値段

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# 直す人の値段
祖母の修理屋で、客に「こんなの百円でやれ」と言われた。
壊れた鞄の持ち手だった。
祖母は千五百円と答えた。
「糸で縫うだけだろ。五分もかからないくせに」
私は奥で腹を立てていた。
祖母は黙って、鞄を客へ返した。
「では、こちらをどうぞ」
針と糸と、革の切れ端を机に並べた。
「道具をお貸しします。百円で」
「俺にやれって?」
「縫うだけでしたら」
客は椅子に座った。
最初の一針が革を通らなかった。
押して、引いて、穴だけが広がった。
祖母が指ぬきを差し出した。
それでも針は斜めに出た。
五分たった。
客は鞄を机に置いた。
「……千五百円で、頼める?」
「承りました」
祖母は古い糸を抜き、裏へ革を一枚足した。
針が迷わず往復した。
持ち手は元の穴にぴたりと戻った。
客が財布を出した。
「道具代も払うよ」
「修理代に入っています」
私はあとで聞いた。
「最初から五分でできたんでしょ?」
「できるまで、三十年かかったけどね」
翌週、その客が別の鞄を持ってきた。
入口で値札を見て、それから祖母に頭を下げた。
「今日は、値段を教わりに来たんじゃなくて」
鞄を両手で差し出した。
「直す人に、お願いに来ました」
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