星猫くるるHOSHINEKO KURURU

S088 急がないレジ

レジで父が、赤ちゃんを抱いて財布を出す客を待つ。

538字・約2分

保存した読書量 0 / 22 か所(0%)

読んだところで「この位置を保存」を押すと、そこまでの読書量を記録します。見出し・段落・画像のページを1か所ずつ数えます。スクロールだけでは記録しません。

# 急がないレジ

父のレジにだけ、「遅いから閉めろ」と苦情が来た。

定年後に始めたスーパーの仕事だった。
指がうまく動かず、袋を開くのに時間がかかる。

父は家で袋を百枚開いた。
翌朝も、指は速くならなかった。

「向いてないのかな」

その日、私が店へ行くと、父のレジが閉まっていた。
隣のレジは三人待ちだった。

杖をついた女性が、父の前で立ち止まった。

「今日は、ここやってないの?」
「すみません」
「困ったわ。ここなら財布を出すの、待ってくれるのに」

後ろから別の客も来た。

「俺、小銭の後ろで舌打ちされるの苦手でさ」

父は若い店長を呼んだ。

「遅いままじゃ、駄目でしょうか」

店長は少し考えた。
父の前に買い物籠を置いた。

「開けてください。札を作ってきます」

翌日、父の頭の上に一枚増えた。

『ゆっくりお会計できます』

速いレジも、そのまま並んでいる。
選べるようになっただけだった。

父の列に、赤ちゃんを抱いた人が並んだ。
財布を出す途中で泣き始め、何度も頭を下げた。

父は袋を一枚、ゆっくり開いた。

「大丈夫ですよ」

その晩、父は練習用の袋を片づけた。
代わりに、店長から渡された新しい札を見せた。

『担当:お待ちします』

くららに感想を伝える

感想は番号(S088)を添えて、くららの「おはなし」へ。感想を書き足してコピーし、「おはなし」に貼り付けてください。コピー時に作品名と保存した読書量も添えます。

参加しているサーバーの 🫖おはなし を開いてください。

このページでは送信・保存しません。「おはなし」への投稿は、その場所の参加者とくららに届きます。

別の窓口:お問い合わせフォームへ(作品番号を添えてください)。

習作の棚へ戻る