06 / 10 · 共通の導入 · ひとつの結末まで約2分
青い爪の領収書
AI が作成
花村レイナは二十七歳で、駅前に三席だけのネイルサロンを持っていた。客の手を取る前に、先に自分の手を見せる。「今日はこっちが失敗。だから、右はやり直す」。そう笑えば、初めての客も指を預けてくれた。
そのやり方を教えたのは、灯だった。十七歳の春、教室で誰とも話さずに座っていたレイナの前に、灯は青い爪を差し出した。親指だけ塗り忘れている。
「見て。途中で寝た」
レイナが笑うと、灯は隣の椅子に座った。
十年後のいまも、灯は月に二度、店に来る。「左だけ任せる」と言って。
十月、実家の片づけを手伝っていて、レイナは薄い紙箱を見つけた。月ごとの領収書の束。差出人は「青葉生活支援」、摘要は「外出同行」「対人交流支援」。担当者の欄に、灯のフルネームがあった。教室で会った四月から、灯が就職した春まで。
「話してくれる人が必要だったの」と母は言った。
翌日、灯はいつもの席に座った。レイナは一枚の領収書を出した。灯は手を膝へ引き、それから全部話した。仕事として引き受けたこと。青い爪は、話すきっかけのために塗ってきたこと。
「でも途中からは、仕事だからじゃなかった」
予約表をさかのぼると、灯の名前は開店の月から毎月あった。契約が終わってから六年、灯は自分のお金で来ていた。
けれど、いつから客で、いつまで担当者だったのか。予約表に、その欄はない。
灯の爪は、先月の淡い青が伸びて、根元に何も塗っていない帯ができていた。
どちらを読みますか
もう一方も、あとで読めます。
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綿を取る(ハッピー)
選ぶと失うかもしれないもの分からないことを分からないまま、また手を預け合うことになる。
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もうできない、と言う(バッド)
選ぶと失うかもしれないもの十年のはじまりの答えは、もう聞けないかもしれない。