CHARACTER
小野弥吉
所属作品:天導ルリカ
栗饅頭を一つもらうと、半分を娘に渡して「半分こだ」と言う。小野弥吉は、『天導ルリカは生まれるのを止めた』に登場する、湖の別荘・星見荘の番人で、小野澪の父です。湖を訪れる人を迎え、桟橋を見回り、水辺の足元を整える。その仕事ぶりは、短い返事と、実際に手を動かす場面から伝わってきます。娘が思い出す菓子の味にも、彼の姿が残っています。ここでは、ミステリー編の湖への到着、零歳転生編の一度目の人生で語られる思い出、二度目の人生の灯籠の夕方を紹介します。異なる世界線や人生の出来事を一つにつなげず、それぞれの場面で、弥吉が何を確かめ、誰に何を渡すのかをたどってみてください。
麦わら帽子の番人と、毎朝の見回り
ミステリー編の第十五話「湖へ」。十歳の瑠璃が星見荘へ着くと、番人小屋の前で麦わら帽子の男が頭を下げます。この場面の弥吉は四十二歳で、日に焼け、首と腕が太い人です。その後ろから十一歳の澪が走り出て、瑠璃の手を取ります。岸で澪が話すのは、瑠璃の手紙を受けた父が、八月一日から毎朝、桟橋の柱を見ていること。「異常なし」と毎日、紙に書いているというのです。弥吉自身の長い説明はありませんが、娘の言葉から、頼まれたことを日々の仕事に移している姿が見えます。湖の景色と一緒に、その繰り返す手仕事にも目を向けてみてください。
娘の覚えている「半分こだ」
零歳転生編の第四章「はんぶんこ」、一度目の人生では、瑠璃と澪が学院の栗饅頭を半分に分けます。澪が毎月買う理由を尋ねられて語るのが、父の好物だったという思い出です。天導家に十二年仕えた弥吉は、帝都から来る客が土産に持ってくる栗饅頭を一つだけもらい、その半分を娘にくれました。添える言葉は「半分こだ」。二人の生徒が菓子を分けた時間に、かつて父娘が分けて食べた時間が重なります。これは、この編の一度目の人生で澪が語る弥吉の姿。番人という役目だけでは捉えきれない父の親しさが、娘の覚えている短い言葉と、半分の菓子から伝わります。
灯籠を流す前に、足元を整える
零歳転生編の第十二章「灯籠」は、二度目の人生の場面です。四歳の瑠璃花たちを迎える弥吉は三十六歳で、日に焼け、痩せて、背筋がまっすぐ。手紙を受け取ったこと、昨日は桟橋に何もなかったこと、明朝も見ることを告げると、行李を運び始めます。翌十四日の夕方、灯籠を流す場所は桟橋ではなく、少し北へ寄った浅い岸です。弥吉は先に来て石を並べ、足元を整え、「こちらのほうが安全でございます」と伝えます。水に入った一臣を叱る姿もあります。皆が水辺で過ごす前に、立つ場所を整えておく。その具体的な準備に、番人として人を迎える弥吉の頼もしさが感じられます。
作品を読む
作品ページの「物語を読む」から、読む入口をご案内します。1.0版のPDFを公開しています。ミステリー編の第十五話「湖へ」と、零歳転生編の第四章「はんぶんこ」・第十二章「灯籠」で、弥吉の仕事や父娘の思い出に触れられます。