星猫くるるHOSHINEKO KURURU

天導ルリカは生まれるのを止めた

第三章 夕立(2/2)

 持ち物を隠す。無視する。悪い噂を流す。ゲームの瑠璃がやっていたことは、全部覚えていた。覚えていて、どれもやる気にならなかった。靴を隠そうとして靴箱の前に立ったら、澪の靴の踵が擦り減っているのが見えて、揃え直して帰ってきてしまった。

 だから、勝負にした。

 一つ目は成績だった。前期の試験の順位表が廊下に貼り出されて、澪は一番だった。私は二十六番だった。

「小野さん。後期は、わたしが上に行きます」

「どうぞ」

 その夏から、私は夜中まで勉強した。眠れない夜の使い道ができた。

 二つ目は席だった。講読会の、窓際の一番前の席。澪は毎回、誰より先に来てそこに座り、窓を開ける。私は一度だけ、始業の一時間前に行ってその席に座った。澪は来て、私を見て、隣に座った。そして私の側の窓を開けた。私は五月の風をまともに浴びて、一時間くしゃみをした。

「窓、閉めてもいいですか」

「天導さんの席ですから、どうぞ」

「……開けたの、小野さんですよね」

「空気が悪かったので」

 三つ目は菓子だった。学院の購買には、月に一度、角の菓子屋から栗饅頭が十個だけ届く。昼休みの鐘と同時に、上級生も下級生も走る。私は、それまで一度も走ったことがなかった。澪は、毎月一つ買っていた。

 私は、その月から走った。

 最初の月は、私が九個目を取り、澪が十個目を取った。二人とも取れた。次の月は、澪が九個目を取り、私の目の前で最後の一つを下級生が取った。私は下級生に「どうぞ」と言った。言ってから、澪が私の顔を見て、何も言わずに自分の饅頭を持って行くのを見送った。

 いじめにはならなかった。一つも。

 帰りの馬車で、私は窓に額をつけた。

 くやしかった。成績も、席も、饅頭も。くやしいのに、毎月一日が近づくと、少しだけ楽しみになっている自分がいた。朝の「おはようございます」とは、違う種類の楽しみだった。