星猫くるる HOSHINEKO KURURU

09 / 10 · 共通の導入 · ひとつの結末まで約3分

はいのあとで

AI が作成

結婚式で誓いの紙を見る奈々と、見守る悠介や参列者

水谷澪は、奈々の声が小さくなると、何か言ってやらなければと思う。
始まりは、二人が同じ書店に勤めていたころだ。勤務表に希望休が一日も入っていない奈々について店長のところへ行き、澪が先に口を開いた。「その日は休ませてください」。奈々もあとから、同じことを自分の声で言った。休みは取れた。
「一人でも言えたのに」と奈々は笑い、「でも早かったでしょ」と澪は返した。
それから、澪が先に話し、奈々が後ろで短く補うことが増えた。

奈々が結婚する。相手の悠介は、奈々が話し終えるまで待つ人だった。
式は、ひと月前に三週間早まった。悠介の祖母が、元の日には来られそうにないからだ。奈々の仕事は残業続きだった。喫茶店で、奈々は式のことを考えると眠れない日があると言った。

「式をやめてもいいんだよ」
「やめたいとは言ってない」

澪は、結婚したいかどうかは尋ねなかった。尋ねたら、奈々は気を使って「したい」と言うかもしれない。

式の朝、奈々は控室で小さな紙を折っていた。誓いの言葉を、自分で書いたのだという。

「練習、聞いてあげようか」
「一人でできる」

会場は小さかった。最前列で、悠介の祖母が背を椅子から少し離していた。
司会役が、これからも共に暮らす意思があるかを、一人ずつ確かめる。悠介ははっきり答えた。
奈々は紙を開いた。指が震えている。紙をいったん下ろし、口を開いたが、声は出なかった。
誰もまだ動かない。澪は、書店の店長の前に立っていた奈々の背中を思い出した。あのときは澪が先に言って、うまくいった。

どちらを読みますか

もう一方も、あとで読めます。

ハッピーorバッドの一覧へ戻る