06 / 10 · もう一方の結末 · ハッピー
青い爪の領収書
ハッピー:綿を取る
レイナは綿を取り、伸びた青を落とし始めた。
「左だけ任せる、でしょ」
灯は少し遅れて、左手を台に載せた。
古い色を落とし、薄い青を塗る。人差し指、中指、薬指、小指。親指の前で、レイナは筆を止めた。
「見て。途中で寝た」
灯が噴き出した。十年前と同じ、肩を揺らす笑い方だった。
乾くのを待つあいだ、レイナは聞いた。
「あの日、何を楽しみに椅子に座ったの」
灯は親指を見たまま答えた。
「笑ってくれるか。それだけは、報告書に書かなかった」
帰り際、灯は代金を払った。レイナは受け取って、店の領収書を書いた。摘要の欄に「左手・青(親指は次回)」。
灯はそれを財布にしまった。
来月の予約の欄に、レイナは灯の名前を書いた。いつから客なのかを書く欄は、やっぱり無かった。無くていい、とレイナは思った。