02 / 10 · 選んだ結末 · バッド
近いから
バッド:近いからだよ、と笑う
「近くに住んでるから書いただけだよ」
澪は笑って続けた。「いちばん早く来られる人ってだけ」
石井はうなずいた。佐和も「そうだね」と返した。誰も黙り込まなかった。三人で、最後の棚板を運んだ。
その夜、戸口で澪は「今日のこと」と言いかけた。
「分かってるよ。石井さん、私たちのこと知らないし」
佐和はそれ以上、澪を助ける言葉を出さなかった。距離も、確かに理由の一つだった。全部うそだったとは言えない。それを選んで、ほかを言わなかった。
引っ越してから、写真だけが行き来した。棚板が逆だと返事が来て、澪が直すと、親指を上げた絵が届いた。前なら、どちらかの部屋へ行って板を持ったはずだった。
夏の終わり、製本所の連絡先の用紙が回ってきた。澪は住所を書き直し、佐和にメッセージを送った。
《今年も名前を書いていい?》
《いいよ》
続けて、もう一行来た。
《仕事場のほうは、石井さんに変えた。近いから》
自分が教えたとおりの理由だった。澪は許された欄に、佐和の番号を書き写した。