星猫くるる HOSHINEKO KURURU

03 / 10 · 共通の導入 · ひとつの結末まで約3分

新聞の終わり

AI が作成

喫茶店で新聞を読む静江と耳を傾ける澄、見守るミア

西尾ミアは二十七歳で、駅前の服屋に勤めていた。金色の髪を高く結び、客の前では遠慮なく喋る。けれど退勤後に寄る喫茶店では、ほとんど喋らなかった。

「ひとりにしてくれる店、最高じゃん」

店主の加納静江は六十五歳。窓際の丸い卓を、何十年も動かさない人だった。

水曜の四時になると、七十三歳の藤森澄が来る。細かい字を長く追うと疲れる澄のために、静江は地方紙の地域欄を声に出して読んだ。
読み方は妙だった。店の改築の記事では、住所を先に読む。途中で澄が「その道、昔は八百屋があった」と言えば、静江は紙を下ろし、話が終わるまで記事へ戻らない。広告に載った鍋の値段まで読んで、最後の頁で二人が笑う。それが水曜の終わりだった。

秋、店の雨漏りがひどくなった。修理の見積もりは、静江がひと月に残せる金より大きかった。
ミアは写真も短い動画も作れる。宣伝に撮らせてほしいと頼むと、静江は笑った。

「屋根の金が出るほど人が来るなら、お願いしたいね」

パンを切る手、細い湯、窓の銀杏。それだけでは、どこにでもある店に見えた。
四時を過ぎて、澄が入ってきた。静江が新聞を広げ、澄が港の倉庫の魚箱の色を話し始める。ミアはカウンターから、静江の背中と新聞だけを十秒撮った。澄の顔も声も入っていない。

投稿の文は、もう書けていた。
《水曜の午後、新聞を読んでくれる喫茶店》
指が、送信の上で止まった。

どちらを読みますか

もう一方も、あとで読めます。

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