02 / 10 · 共通の導入 · ひとつの結末まで約2分
近いから
AI が作成
森谷澪と樋口佐和は、古い集合住宅の二階で六年、隣どうしだった。階段の右が澪、左が佐和。
最初に話したのは、澪の引っ越しの日だ。廊下で空き箱の底が抜け、本が散らばった。佐和はしゃがんで拾い、表紙より先にページを確かめた。「曲がらなくてよかった」。この人とは話せる、と澪は思った。
翌年、澪が鍵をなくした日、佐和は自分の部屋に澪を入れて麦茶を出した。
「帰るまでここにいていいよ」
後日、佐和が塗料の匂いをさせて疲れて帰ってきた夜、澪は同じ言葉を返した。
勤め先の製本所の書類に、家族以外の緊急連絡先を書く欄がある。澪がそこへ佐和の番号を書いた翌月、佐和も仕事場の用紙に澪の番号を書いた。どちらが先だったかは、照れくさくて話さなかった。
春、建物の建て替えが決まった。佐和は駅の北へ、澪は南へ移る。
退去の一週間前、佐和の新しい仕事仲間の石井が、荷造りを手伝いに来た。三人で棚を運び、空いた床に座って麦茶を飲んだ。
佐和が、澪をこう紹介した。
「家族より先に連絡する人」
「それは心強いね」と石井が言った。
澪の顔が熱くなった。嫌だったのではない。六年を知らない人の前で、誰かの暮らしの深いところに座っている自分が、急に恥ずかしかった。
佐和は何も言い足さず、澪を見ていた。
どちらを読みますか
もう一方も、あとで読めます。
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そうだよ、と言う(ハッピー)
選ぶと失うかもしれないもの照れくさい本当のことを、知らない人の前で認めることになる。
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近いからだよ、と笑う(バッド)
選ぶと失うかもしれないもの笑ってごまかした理由が、そのまま二人の理由になるかもしれない。