04 / 10 · もう一方の結末 · バッド
外さなかった蓋
バッド:昔話でごまかす
「昔のやつは、よく鳴ったんだ」
嘘ではなかった。千春は「これはまだ新しいからね」と言い、作業へ戻った。
翌週、治具の下に厚い布が敷かれ、音は遠くなった。納品の前日、重一は「検査、もう一度見ようか」とだけ言った。理由は言わなかった。
「終わったよ。ありがとう」
五日後、抜き取り検査で、噛み合う力の弱いものが見つかった。記録の数字は、どれも基準内だった。
千春が蓋を開けた。薄い板の端が、留め具から外れていた。動かすと、重一の知っている乾いた音が出た。
「いつから?」
重一は、最初の百個の日だと答えた。
「お前が頼んだときだけ、手を出す約束だった」
「手を出す前に言って、って言ったよ」
全数を回収した。取引先は、この品目を別の工場へ移した。冬のあいだに、千春は工場を閉めると決めた。
最後の日、作業台には治具の蓋だけが残っていた。裏に、薄い板の細い擦り跡がある。最初の日に外していれば見えた跡だった。
千春は「捨てる」と言った。重一が箱へ入れると、蓋は、あの短い音とは違う、重い音を立てた。