星猫くるる HOSHINEKO KURURU

10 / 10 · 選んだ結末 · バッド

いないほうが楽

バッド:じっとしていて、と言う

台所で母と娘が静かに立っている

「少し、じっとしていて」

灯は動きを止めた。葉月は続けた。

「あなたがいないほうが、ずっと楽」

換気扇が鳴っていた。その音に紛れればよかった。灯は葉月を見ていた。怒った顔でも、泣きそうな顔でもない。誰かから聞いた道順を、間違えないように頭に入れるときの顔だった。

翌朝、葉月は謝った。灯は「わかった」と答えた。朝の予定を確かめるときの声だった。
それから灯は、「卵、割っていい?」と聞かなくなった。頼まれたことだけをした。一人で食べた日は自分の食器だけを洗い、葉月の分は乾燥かごに残した。何度言っても、そこまでは洗わなかった。七歳の六月の言葉を、灯は家の中の細かい決まりに作り替えていた。

十八歳で、灯は遠い町の住み込みの仕事を選んだ。駅で、葉月は尋ねた。あの夜のせいか、と。

「仕事を選んだのは私。でも、家を出ていいと思えたのは、あのときから」

家に戻ると、灯が使っていた椅子を机の下へ入れた。食事は一人分で足りる。
あの夜、葉月が口にしたとおりの暮らしになっていた。言い間違いだったと説明できるものが、部屋には一つも残っていなかった。

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