星猫くるる HOSHINEKO KURURU

10 / 10 · 共通の導入 · ひとつの結末まで約3分

いないほうが楽

AI が作成

台所で料理をする母に娘が声をかける

平山葉月は二十九歳で、駅前の洋服直しの店に勤めていた。七歳の娘の灯と住む部屋は、台所から玄関まで六歩だった。

灯は話し始める前に、相手の顔を確かめる子だった。葉月の手が空くのを待って、今日見た雲の形を話す。葉月が疲れている夜は、言葉が短くなる。代わりに窓の結露に指で線を引き、どちらの水滴が先に下まで着くかを二人で見た。隣との壁が薄いので、灯は声を出さずに肩を揺らして笑った。

春に一人辞めてから、店は閉店時刻を守れなくなった。遅い日は、向かいの惣菜店の千佳に灯を預けた。

六月の金曜日、葉月は裾上げの位置を間違えた。印を付けたのは自分だった。縫い直して、謝って、一時間遅れて服を渡した。帰りの電車では、立ったまま眠りかけた。

部屋に入ると、流しに洗った皿が二枚伏せてあった。床には椅子を動かした四角い跡がある。届かない棚の皿を、灯が椅子に乗って洗ったのだ。
葉月は礼を言い、フライパンを火にかけた。

「卵、割っていい?」
「まず座ってて」

灯は座り、一分ほどして、また立った。

「ねぎは、もう切ってあるんだね」
「うん」
「お皿、しまっていい?」
「あとで」

何かを褒めなければ、と葉月は思った。そう思うこと自体が、もう一つの仕事のように感じられた。

灯が三度目に立ち上がった。小さな足音が冷蔵庫の前で止まり、戻ってくる。
葉月は火を弱め、菜箸を置いた。

どちらを読みますか

もう一方も、あとで読めます。

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