星猫くるる HOSHINEKO KURURU

08 / 10 · もう一方の結末 · バッド

結び目をほどく前に

バッド:上がってきた言葉を言う

梢が一人、短い紐を手首に巻く

「私がいなければ、一人で走れないくせに」

声は大きくなかった。相沢の手が止まり、瓶から落ちる水の音だけが続いた。
史帆は梢のほうを向いた。

「それを、今言うの」
「言い方が悪かった」
「言い方の話じゃない」

史帆は自分の手首の紐をほどき、きれいに丸めて台に置いた。

「今日は帰る」

三日後、文が届いた。《走ることは決めた。誰と走るかも決めた。梢とは走らない》
大会の結果が、練習会の連絡網に載った。史帆は完走していた。前半には梢の知らない人の名前、後半に相沢。伴走者の欄に、梢の名前は無かった。

翌月、休憩所の棚を片づける当番が回ってきた。奥の袋から、短い紐が一本出てきた。二人で長さを決めた紐だ。
梢は手首に巻いた。結び目は、いつもの位置に来た。もう片方を握る人がいなければ、紐はただ輪になって垂れる。
外では、二人ずつの足音が通っていった。どの組の手首にも紐が見えた。足音が通り過ぎるまで、梢は棚の戸を閉められなかった。

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