07 / 10 · 選んだ結末 · ハッピー
二人の残留
ハッピー:誘いのことを話す
「芙美さん。うち、隣の市の店に誘われてる」
芙美はほうきを止めた。長く黙って、それから笑った。
「なんだ。もっと早く言ってくれればよかったのに」
芙美はレジの下から封筒を出した。母の住む町で、友人が店の席を一つ空けているという。週に三日。残りの日は母に会える。
「あんたを置いて行けないと思って、断るつもりだった」
「うちも、同じこと思ってた」
二人は閉店後の店で、互いに言わなかったことを並べた。日付を確かめて、どちらが先に隠したかで、少しだけ揉めた。
建物の契約は更新しないことにした。最後の月、予約帳の客に一人ずつ、次の店を書いた紙を渡した。
最後の日、リカは芙美の髪を切った。鏡を見せる前に、聞いた。
「今日、ここだけは絶対変えたくないってとこ、ある?」
芙美は少し考えて、首を振った。
「ない。全部変えて」
予約帳の最後の頁に、芙美は二人の名前を書き、横に小さく「また」と書いた。