08 / 10 · 選んだ結末 · ハッピー
結び目をほどく前に
ハッピー:見えたとおりに答える
「寄ってない。相沢さんに合わせて、歩幅を短くしただけ。もう一段、上げられるよ」
史帆はうなずいた。
「じゃあ次は、上げる」
相沢が紙コップを置いて、「梢さんの言うとおりの位置でした」と笑った。
大会の日、梢は十五キロ地点で待った。足は痛まなかった。相沢が史帆の合図で紐を渡す。三人の足音が一瞬重なって、梢の手首に、いつもの強さで紐が巻きついた。
「左へ半歩」
工事の柵を、短い言葉で抜けた。四年前なら、何と言っただろう。
史帆は完走した。記録の欄には、伴走者の名前が二つ並んでいた。
ゴールの先で、史帆が手首を差し出した。
「結び目、梢がほどいて」
梢は指先で、結び目をほどいた。紐は二人で長さを決めたときのまま、梢の手の中で輪になった。